Dreamforce 2026 視察レポート|「思ってたより、派手じゃない」その先にあった体験設計
阿部 晴佳

世界最大級の BtoB カンファレンスなら、街中が Dreamforce 一色になり、巨大なブースや派手な演出が待っている――。そんな光景を想像してサンフランシスコへ向かいました。
ところが、現地で感じた第一印象は「思ってたより、派手じゃない」でした。
空港で目にした Dreamforce の広告は意外なほど少なく、街中も Salesforce 一色というわけではありませんでした。それでも3日間後には、「これほどの規模の BtoB カンファレンスは、なかなかない」と感じていました。
その理由はどこにあったのか。
振り返ると、印象に残ったのは、巨大なステージや豪華な装飾だけではありませんでした。参加登録を終えた直後から届き始めるスポンサー企業からの招待、会場へ向かう街中の接点、基調講演の待ち時間、ブースを訪れる理由、休憩スポットや食事、コミュニティプログラム、そして夜の Dreamfest。
そこには、参加者が「次に何をするか」を選び、行動に移すきっかけを途切れさせない体験設計がありました。
本記事では、Salesforce の製品・サービスの最新情報ではなく、BtoB イベントを企画・運営する立場から、Dreamforce 2026 で実際に見て、歩いて、体験した「参加者体験のつくり方」を振り返ります。
1|「世界最大級」なのだから、街中が「Dreamforce 一色」だと思っていた
Dreamforce への参加体験は、登録をした時点から始まっていました。
登録を済ませると、スポンサー企業からセッションやブースへの招待メールが届き始めます。中には、はがきの DM を送ってきたり、LinkedIn で連絡してくる企業もありました。
写真 01|告知・招待 DM

まだ日本にいる段階から、主催者だけでなく、スポンサー企業のさまざまなアプローチを通じて Dreamforce との接点が生まれていました。会期が近づくにつれて案内が増え、参加への期待感も高まっていったように思います。
だからこそ、サンフランシスコに到着すれば、空港から街中まで Dreamforce 一色になっているのではないか――。そんな光景を想像していました(何度も参加されている方からは、「そんなはずはない」と笑われてしまうかもしれませんが。笑)
ところが、実際の光景は想像とは異なりました。
到着時、空港から市内へ向かうまでに私が気づいた Dreamforce の広告は、スタンドバナー1つ。帰国時には、別の場所にも同じデザインのスタンドバナーとデジタルサイネージの広告があることに気づきましたが、「世界最大級のカンファレンス」というイメージからすると、かなり控えめな印象でした。
もう一つ印象的だったのが、街中の OOH(屋外広告)です。
写真02|街頭広告①

私たちが目にした広告は、Dreamforce と直接関係のないものも含め、「ロゴのみ」あるいは「ロゴと短いコピーのみ」のものが目立ちました。背景も白や黒、単色、グラデーションなど、シンプルなクリエイティブが多く、日本で普段目にする広告と比べて、情報量が少なく感じられました。
米国の屋外広告業界団体 OAAA のガイドでは、短く要点を絞ったメッセージを推奨し、「7語以下」を一つの目安としているようです。また、道路沿いの広告と、数分以上見る時間のある地下鉄車内の広告では、設計を変える必要があるとされています。
参考:OOH Creative Best Practices
今回感じた違いには、デザイン文化だけでなく、「どこで、どのくらいの距離から、どのくらいの時間、広告を見るのか」という媒体環境も影響しているのではないかと思いました。
海外の OOH については、過去の記事でも触れています。
関連記事:海外イベント放浪記「NVIDIA GTC 2025」
2|街を染めていたのは「Dreamforce の公式広告」だけではなかった
思ったより控えめな広告も、メイン会場の Moscone Center に近づくと変わり始めます。周辺のホテルのショーウィンドウや壁面には Dreamforce のサインが見られ、会場に近づくにつれて、イベントの存在感や臨場感が高まっていくように感じました。
ただ、ここでも公式の Dreamforce 広告は、想像していたほど多くはありませんでした。ところが街を歩いてみると、別の形で Dreamforce の存在感が見えてきました。
例えば、SPiN San Francisco では、Dreamforce に合わせて Accenture のポップアップブースが設けられていました。また Moscone Center のすぐそばにオフィスを構える Copado は、オフィス前に加え、街中を走るペディキャブ(自転車タクシー)でも広告を展開していました。
ほかにも、Dreamforce 参加者向けの朝食ラウンジや交流ディナーなど、会場の外で接点を設けている企業が多く見受けられました。
写真03|街頭広告②:朝食ラウンジ・交流ディナーの案内、ペディキャブ

このように Dreamforce の会場周辺で、スポンサーやパートナー企業が独自のイベントを展開していたことが印象的でした。
また広告以外でも、Dreamforce を感じさせる場面がたくさんありました。
朝食のために立ち寄ったカフェでは、店員さんから「Dreamforce に行くの?」と聞かれました。朝のランニングでは、街の人から「You guys are Salesforcers(Salesforce の人たちでしょ?)」と声をかけられ、夕食で立ち寄ったレストランには「HAPPY SALESFORCE WEEK」と書かれた、席の利用時間を案内する POP が置かれていました。
写真04|レストランの POP

Salesforce の公式広告だけでなく、企業や店舗、参加者、そして街の人々が、Dreamforce の存在感をつくっている。これが、現地で感じた「街との一体感」でした。
日本で同じような広がりを生み出すのは容易ではないと思います。それでも、会場周辺のホテルや飲食店、スポンサー企業と連携し、朝食ラウンジやアフターパーティーなど、会場の外にも参加者との接点をつくる考え方は応用できるのではないでしょうか。
3|一つの場所に集めない。「次に何をするか」を選べる設計
Dreamforce の規模を最も感じたのは、単純な会場の大きさではなく、参加者が選べる体験の多さでした。
印象に残ったのが、Main Keynote(メイン基調講演)終了後の人の流れです。
Main Keynote の会場を出た向かい側、同じフロアに Campground(展示エリア)がありました。当然、Keynote 終了後は、多くの参加者がそのまま展示エリアへ流れ込むのだろうと思っていました。
写真05|Main Keynote と Campground、導線

ところが実際には、多くの人が地上へ向かうエスカレーターへ進んでいきました。ベルトパーティションによる誘導も地上方向へ向いていたため、その影響はあったかもしれません。
ただ、3日間を通して振り返ると、Dreamforce には Campground 以外にも行き先がたくさんありました。Trailblazer Forest や Learning Labs、ハンズオン、コミュニティプログラム、シアター形式のセッション、Trailblazer Quest など。さらに飲食や休憩のためのスペースもあり、Moscone Center の各館と周辺エリアに、多様な体験が広がっていました。
私が想定していた「基調講演が終わったら展示エリアへ」という一本道の動線ではありませんでした。一つのコンテンツに全員を集めるのではなく、参加者それぞれが次の行動を選べる。その選択肢の多さが、大規模イベントの人の流れを支える一つの要素なのかもしれません。
一方で、気になったこともありました。会場全体を俯瞰できるマップを、私たち自身がなかなか見つけられなかったことです。2日目になって Dreampark でマップを見つけると、ようやく全体像を把握できました。
選択肢を増やすほど、参加者が「自分は今どこにいて、次に何ができるのか」を理解できる情報設計が重要になるのだなと感じました。
写真06|会場マップ

4|「バーコードをスキャンして終わり」にしない。その先にも体験を
展示エリアで特に印象に残ったのが、Slack ブースでした。
ミニゲームなどに参加するとポイントを獲得でき、そのポイントに応じてマスコットやステッカーなどのノベルティ(Swag)と交換できる仕組みでした。
「Trailblazer Quest」も似た構造です。指定されたスポットで説明を聞く、ハンズオンに参加する、セッションのアンケートに回答するなど、複数の行動を通じてポイントを貯め、ノベルティと交換できるというものでした。
写真07|Slack のノベルティ交換所と Trailblazer Quest の景品交換所

ここではノベルティが、バーコードのスキャンと引き換えに受け取る配布物にとどまらず、「参加者にしてほしい行動」への報酬として位置づけられていました。
BtoB イベントでは、参加者のバーコードをスキャンし、リード(見込み顧客)の獲得件数を増やすことがKPIになるケースが多々あります。もちろん、新たなリードの獲得は重要です。ただ、その件数に加えて、「参加者に何を体験してもらい、どのような理解や関心につなげたいのか」も設計する必要があるのではないかと感じました。
ただし、ゲームを用意すれば、それだけでブランド体験になるわけではありません。
会場には、バスケットボールのシュートゲームやクレーンゲーム、カプセルトイなど、人を集めるアクティビティも多くありました。実際に多くの人が集まっており、私も参加しました(笑)。一方で、私が体験した範囲では、その内容とブランドや製品とのつながりをつかみにくいものもありました。
中には、手に入れたノベルティを見ながら「この企業が伝えたいブランドイメージと、どう結びつくのだろう」と考えさせるものもありました。
足を止めてもらう仕掛けをつくることと、ブランドへの理解を深めることは同じではありません。「どのような行動を促し、その体験を通じて何を持ち帰ってもらいたいのか」を先に考える必要がありそうです。
5|2時間の基調講演は、製品発表にとどまらない「理解を促すストーリー」
Dreamforce 2026 では、Salesforce の AI 戦略を中心に数多くの発表が行われました。
写真08|Main Keynote 会場全景

最新情報はすでに多くの記事や SNS 投稿で紹介されているため、ここでは詳しく触れません。イベント設計の観点で興味深かったのは、複雑なテクノロジーへの理解を、どのように促していたかです。
Main Keynote では、大きなビジョンから仕組みの説明へ進み、具体的なAIエージェントやライブデモが紹介されました。顧客およびパートナー企業の経営者も登場し、その取り組みが事業や産業にとってどのような意味を持つのかを語っていました。
Siemens のパートでは、Web 上で AI が顧客と会話し、商談機会をつくり、その後の業務まで担う様子がデモで示されました。その後、同社の経営者が、AI によって産業や業務がどう変わるのかという、より大きな視点へと話を広げていました。
Adecco のパートでも、採用業務におけるAI活用を具体的に見せた後、経営者が、人と AI がどう働くかというテーマへと話を展開していました。
Anthropic や NVIDIA も登場しました。Salesforce だけで未来を語るのではなく、顧客企業やAI企業、テクノロジーパートナーが、異なる立場から同じ世界観を補強しているのだと感じました。
ビジョン → 仕組み → デモ → 顧客企業の実践と経営者の視点
私には、製品を順番に紹介するだけでなく、参加者の理解を段階的に深めるストーリーとして設計されているように見えました。
そしてもう一つ、Main Keynote への参加体験は、開演時刻の10時よりもかなり前からスタートしてました。
私たちは「朝8時頃、到着しておくと安心」という事前情報をもとに、8時15分ごろ会場へ到着しました。ある程度の待機時間を覚悟していましたが、スムーズな誘導のおかげで開場の8時30分から10分経たず、着席できました。
開演1時間前の9時からは、LT Smooth さんによる心地よいライブ演奏が始まりました。開演前にはキャラクターとのグリーティングのような演出や、Dreamfest に出演する Gwen Stefani さんのミニライブも行われました。
その間、会場上部の大型スクリーンには、スポンサー紹介、Trailblazer Quest、イベントアプリ、Learning Labs、Dreamfest、安全に関する案内などが表示されていました。
開演までの時間も、参加者が楽しみながら、イベントをより深く知る時間になっていました。「待っている時間をどう使うか」を、改めて考えさせられました。
写真09|開演前のライブ演奏・スクリーン・グリーティング

6|参加者の疲れに配慮することも、イベントデザイン
イベント体験というと、ステージや展示に目が向きがちです。しかし3日間を過ごして、もう一つ重要だと実感したのが、ホスピタリティです。
Dreamforce の会場では、いたるところに休憩スペースや充電スポットがあり、コーヒー、水、ソフトドリンクなどが提供されていました。
写真10|Data Cafe ・ドリンクステーション

個人的にありがたかったのは、無糖のフレーバー炭酸水です。コーヒーや水以外にも甘くない飲み物を選べるのがうれしく感じられました。
朝食や昼食に加え、クッキーやポップコーンなどのおやつも、さまざまな場所で提供されていました。朝食にはカットフルーツ、ドーナツ、マフィンなどがあり、昼食はベジタリアンやビーガン向けのメニューを事前予約できる仕組みになっていました。
大事なのは、食事のおいしさだけではありません。長時間にわたるイベントを無理なく楽しんでもらうために、参加者の体調や疲れに配慮することも、イベントUX(参加者体験)の一部なのだと実感しました。
休憩場所、飲み物、食事、電源、トイレ。これらは基調講演ほど華やかなものではありません。それでも、参加者が休みながら次の体験へ進むには欠かせません。こうした「何も起こらない場所」の設計にも、もっと目を向ける必要がありそうです。
7|「コミュニティ」は交流会だけじゃない
今回参加したプログラムの中で、少し変わっていたのが「Community Fun Run」です。
写真11|Community Fun Run:Oracle Park 周辺や街の写真

ランニングイベントですが、ウォーキングでも参加できると知り、参加を決めました。集合時間に間に合わせるため、ホテルを出たのは朝5時過ぎ。まだ街は真っ暗でした。
集合場所にあちこちから人が集まり、気が付くと100人以上の参加者がいたように思います。5万人以上が来場した Dreamforce 全体から見れば、小規模なプログラムです。日本からの参加者は、私たち以外には2人ほどだったように思います。
普段から走っていると思われる方が大半で、歩いて参加した私たちは、最下位でゴールしました(笑)。
それでも、限られた滞在時間の中で街そのものを見る貴重な機会になり、参加してよかったと思っています。
コースは、その夜に Dreamfest が開催される Oracle Park の周辺を回るものでした。初参加の私たちにとっては、メイン会場から少し離れた Dreamfest 会場へのルートを確認する機会にもなりました。
ゴールまでずいぶん時間をかけてしまいましたが、スタート地点に戻るとスタッフの方が待っていて、早朝から参加した私たちをねぎらってくれました。その後、集合場所近くのカフェが開店したので、コーヒーを飲んでから歩いてホテルへ戻りました。
帰り際、Salesforce Tower の前を通った際、マントをつけたままの私たちに、スタッフの方が「走ってきたの?」と声をかけてくれたのも、よい思い出です。
日本でこういったプログラムを取り入れるなら、参加者の宿泊状況や移動時間に合わせ、形式を考える必要がありそうですが、ランニングに限らず、朝食ラウンジやコーヒースタンド、軽食を楽しむスペースなども考えられるのかなと思いました。
Dreamforce では、このランニングイベントのほかにも、Dreamfest 前に楽しめる「Lip Sync Battle」や、一緒に Dreamfest へ向かう仲間と出会える「Concert Buddies」などが用意されていました。
交流することだけを目的に集まるのではなく、一緒に何かを楽しむ中で接点が生まれる。そんなコミュニティのつくり方も、持ち帰れる学びだと感じました。
8|カンファレンスの熱量を、そのまま Dreamfest へ
2日目の9月16日夜には、Oracle Park で「Dreamfest」が開催されました。
写真12|Oracle Park全景・ドローンショー

早朝の Community Fun Run で少し疲れていた私たちは、早めに会場周辺へ移動し、向かいのレストランで休憩してから入場しました。かなりの混雑を覚悟していましたが、入場は意外なほどスムーズでした。
会場内ではフードやドリンクが提供され、飲食エリアには列ができていました。一方、スタンドには座ってライブを見られる場所が十分にありました。
私たちの席からは、肉眼でアーティストの表情が分かる距離ではありませんでしたが、ステージ両側の大型スクリーンが鮮明で、鑑賞に困ることはありませんでした。
特に印象的だったのが、出演アーティストが入れ替わる時間です。ステージの転換中に、ドローンショーが始まりました。
私たちは「最後まで参加できる自信はないけれど、ドローンショーは見たい」と話していたので、予想していなかった、うれしいタイミングでした。
ここでも、Main Keynote と同じく、待ち時間を一つの体験に変える工夫が見られました。基調講演の開演前にはライブや情報提供があり、Dreamfest では転換時間にドローンショーが組み込まれていました。
カンファレンスにエンターテインメントを加えるだけでなく、体験と体験の「間」まで設計していることが、強く印象に残りました。
9|Dreamforce から、日本の BtoB イベントが持ち帰れること
振り返ると、Dreamforce で印象に残った体験には、日本の BtoB イベントにも応用できる考え方があったように思います。
巨大な基調講演会場や、有名アーティストを招いた Dreamfest を、そのまま再現するのは現実的ではありません。それでも、体験をつくるための視点は、活かせるのではないかと思います。
● 参加登録をゴールではなく、体験のスタート地点と考える
登録後にセッションやブースへの招待を送り、参加前から期待感を高める接点をつくる。
● 会場の中だけをイベントと考えない
スポンサー企業、近隣のホテルや飲食店とも連携し、会場の外にも参加者との接点を広げる。
● 基調講演後の行き先を一つにしない
展示、学習、交流、飲食、休憩など、参加者が目的や体調に応じて次の行動を選べるようにする。その選択を支える案内も忘れずに用意。
● ノベルティを配るだけで終わらせない
参加者に促したい行動と報酬を結びつけ、その体験をブランドや製品への理解につなげる。
● 待ち時間もイベントの一部と考える
開演前や転換時間を、情報提供やエンターテインメントの時間として活用する。
● 参加者の疲れに配慮する
休憩場所は、参加者が無理なく滞在し、次の体験へ進むための基盤として整える。
Dreamforce へ参加する前は、「世界最大級のBtoBカンファレンスなのだから、とにかく派手なのだろう」と思っていました。
実際には、空港は Dreamforce 一色ではなく、街中の広告もシンプル。すべてのブースが巨大で派手なわけでもありませんでした。それでも、3日間を通して、ほかではなかなか経験できない規模を感じました。
その理由は、会場の大きさや豪華なコンテンツだけでなく、参加者が次の行動を選び、体験を続けるきっかけが、さまざまな場面に用意されていたからではないでしょうか。
参加登録をした瞬間から、会場へ向かい、基調講演を見て、次の場所へ移動し、休み、誰かと出会い、夜のイベントへ向かう。
Dreamforce を個々のコンテンツではなく、一連の参加者のジャーニーとして捉えると、現地で感じた規模の大きさを支えていたものが見えてきます。
日本の BtoB イベントへ応用する際にも、まず考えたいのは、予算や演出の規模より、参加者が体験を続けられる仕組みです。
「参加者は次に何をしたくなるか。その行動をどう支えるか」。
それが、今回の Dreamforce 視察で得た一番の学びでした。
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