Vol.3
最初の受注より、「再現できる受注」が重要だ
―nCino Japan 野村氏が語る、日本市場でスケールを生む売り方
ENJINスタッフ執筆
- 2026年 5月 26日 -

海外企業が日本市場に参入するとき、まず欲しくなるのは「最初のロゴ」です。実際、最初の顧客を獲得できれば、社内の期待も高まり、市場に受け入れられた感触も得られます。
ですが、nCino Japan の立ち上げを担った野村氏は、その感覚にこそ落とし穴があると振り返ります。
重要なのは、単に最初の受注を取ることではない。自社が本来届けるべき価値を、正しいスコープで提案し、再現可能なかたちで受注することだ――。
最初の数社を獲得したあと、長い停滞を経て、なぜ売り方を抜本的に変えたのか。その転換点について聞きました。
―― テーマ2では、市場が動くには先行事例が重要だという話がありました。初期の提案設計について、振り返るとどのようにお考えですか。
野村氏 :
今振り返ると、最初の受注を獲得できたこと自体は大きな一歩でしたが、その後の経験を通じて、提案設計のあり方を深く見直すことになりました。自社が本来狙うべきディールサイズ、本来届けるべき価値、本来提供すべきスコープという観点で、さらに改善できる余地があったと感じています。
―― 具体的にはどういう意味ですか。
野村氏 :
本来、nCino は融資プロセス全体をカバーできるプロダクトです。ただ当時は、お客さまから「既存システムは変えられない」「フロントのUIのみ改善したい」というご要望も多く、そのご事情に寄り添うかたちで提案していました。バックエンドのシステムはそのまま残し、フロントだけ nCino を活用する構成です。
お客さまの状況を踏まえれば、当時としては一つの合理的な選択でした。ただ、その後の取り組みを通じて、本来の価値をより大きく届けられる設計があると気づいていきました。
「最初の受注」から、「再現可能な本来の価値提供へ」
―― ただ、そのやり方では限界があった?
野村氏:
はい。というのも、後方システムを残したままだと、コスト構造がほとんど変わりません。そこに nCino が加わるため、投資回収の見通しが立てにくくなります。しかも、インターフェースは増え、プロセスの複雑さも根本的には解消されません。
本来届けたい価値に対して、かなり小さいスコープで提供していたため、組織に与えるインパクトも、当然小さくなります。
―― 最初の3件が早く契約できたことで、むしろ見誤った部分もあったのでしょうか。
野村氏:
あったと考えています。前にお話しした通り、(→インタビュー2へのリンク貼る)私がジョインして1年半で3行もの銀行とご契約できたため、当時は「意外と早く波を作れそうだな」と思いました。しかしその後、市場の本格的な立ち上げに向けて、アプローチを根本から見直す期間に入りました。初期のお客様は、ある意味で「我こそはと、先陣を切ろう」とする姿勢をもった銀行でした。そこから先の多数派は、やはり他社の成功を見たいと考えています。だから、ロゴを獲得できたことと、市場が本格的に開くことは別ものです。
転換点は、「大きな案件の否決」だった
―― 売り方を変えるきっかけは何だったのですか。
野村氏:
大きかったのは、ある案件の検討プロセスの中で、経営トップから「現実的ではない」というご判断をいただいたことです。
当時の提案も、後方システムを残し、フロントだけを入れるような形でした。精緻にROIも作り込みましたが、結局、「現実的ではない」と判断されました。今振り返ると、その経営トップの判断は正しかったと思います。後方が変わらないにもかかわらず、新たな投資だけが加わる。これでは、経営としては意思決定は困難です。
この経験によって、認識を大きく改めました。
―― そこから、どう変えたのでしょうか。
野村氏:
本社の上司ともかなり議論を重ねました。その中で、「nCino は本来、シングルプラットフォームでプロセスとデータを変えていくものなのに、なぜ残すのか」という話になりました。そこは、本当にその通りだと思いました。全部を入れ替える前提で組み上げれば、ディールサイズは大きくなり、ROIも向上します。データは一元化され、プロセスも一元化されます。経営に必要な情報も取得しやすくなり、将来の変化にも対応しやすくなります。
つまり、「やらない理由があるのか」という提案に変わりました。

日本市場だからこそ、「中途半端」を断つ
―― その方針転換は、日本市場では勇気がいる決断だったのではないですか。
野村氏:
ええ。しかし、やるのであれば中途半端はやめるべきだと考え、途中からはっきり伝えるようになりました。「このシステムだけは残したい」というご要望がある場合は、まず本来のスコープで得られる価値をご一緒に整理させてください、とお伝えするようになりました。
中途半端な形での導入では、本質的な課題が解消されず、お客さまにとっても良い結果につながりません。本来の価値を正しく届けることが、長期的なお客さまの成果にもつながると考えています。この転換は非常に大きな意味をもっていたと思います。
―― その後、反応は変わりましたか。
野村氏:
変わりました。パイプラインを全面的に見直し、提案も刷新しました。その結果、経営トップの反応が明らかに変化しました。「これをやらない理由は何か」と検討するモードへ移行したのです。そこから急成長カーブに入ったと認識しています。
結局、日本市場でスケールするには、売りやすい形で売るのではなく、正しい価値が伝わる形で売ることが重要であると考えています。
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