Vol.3「広い市場から入るつもりはない」
―AI時代の日本進出は、守るべき現場から始まる

ENJINスタッフ執筆
- 2026年 4月 28日 - 

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海外企業が日本進出を考えるとき、まず大きな市場規模や知名度の高いカテゴリーに目が向きがちです。けれども、Mattermost CEOのイアン・ティエン氏の話を聞いていると、出発点はむしろ逆であるべきだと感じます。重要なのは、「一番広い市場はどこか」ではなく、「自社の強みが最も深く刺さる現場はどこか」という問いです。とくにAIが業務の中に入り込み始めた今、企業や政府にとって本当に重要なのは、単なる利便性ではなく、知識や判断の基盤を誰が管理し、どこに残すかという点になりつつあります。今回のインタビューでは、イアン氏に、日本市場でどこを起点に勝負すべきかという視点から話を聞きました。

市場規模より、「価値が最も明確に伝わる場所」から始める

―― 日本進出というと、つい市場規模の話から始まりがちです。イアンさんは、どこから市場を見ていますか。
イアン・ティエン氏
私は、最初から「一番広い市場」に入ろうとは考えていません。むしろ大事なのは、自社の価値が最もはっきり伝わる環境がどこかを見極めることです。私たちの場合、それは一般的な消費者向け市場ではなく、機密性や統制が重要な組織でした。製造業、ハイテク、政府、重要インフラ、防衛のように、情報の扱い方そのものが経営や運用に直結する現場です。そうした場所では、「便利かどうか」だけではなく、「その基盤を誰が管理し、どこまで自分たちでコントロールできるか」が非常に重要になります。

「広さ」よりも「深さ」を優先する

―― つまり、最初から「広く取る」より、「深く必要とされる場所」から入る、ということですね。
イアン・ティエン氏
はい、その通りです。広い市場は魅力的に見えますが、そこで本当に差別化できるとは限りません。一方で、制約の強い領域では、要件が明確です。何を守らなければならないのか、何を外に出せないのか、どこに統制が必要なのかがはっきりしている。そういう環境では、自社の強みも伝わりやすくなります。ですから、日本進出を考えるときも、最初に市場規模だけを見るのではなく、「自社はどんな制約の下で最も強いのか」と考えることが大事だと思います。

AI時代に、この問いがより重要になる理由

―― AIの時代になって、その考え方はより重要になっているのでしょうか。
イアン・ティエン氏:
非常に重要になっています。AIが業務に入ってくると、単なるコミュニケーションツールや業務ソフトの話では済まなくなります。どこに知識が蓄積されるのか、誰がその知識を使うのか、そこで生まれた価値が自社の中に残るのか。そうしたことが経営課題になります。だから、AI時代の市場選びでは、「どれだけ多くの人が使えるか」だけでは不十分です。どの顧客が、その基盤を事業や統治の中核として扱うのかを見なければなりません。

このアプローチと相性の良い日本市場

―― その意味で、日本市場にはどんな可能性があると見ていますか。
イアン・ティエン氏:
日本には、そうした考え方と相性の良い産業が多いと思っています。製造業、重要インフラ、高度な技術を扱う企業、公共性の高い組織など、情報の管理や統制が非常に重要な現場が多くあります。しかも、日本では品質や継続性に対する期待も高い。ですから、単に「便利な製品」を持ち込むだけではなく、「この環境で本当に使える基盤」を提供できる企業には、大きな可能性があると思います。

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参入障壁の高さは「欠点」ではない

―― 一方で、そうした領域は参入障壁も高そうです。
イアン・ティエン氏:
はい、簡単ではありません。ただ、私はそこがむしろ重要だと思っています。参入障壁が高いということは、誰でも簡単に入り込める市場ではないということです。そして、その壁の中身をよく見ると、単に閉鎖的なのではなく、守るべきものがあるから厳しいのです。そこを理解し、必要な品質や統制、サポート体制を整えられる企業にとっては、強い市場になります。ですから、難しいから避けるのではなく、「自社はその条件に応えられるか」という問いで見るべきだと思います。

日本進出を考える海外企業への示唆

―― その考え方は、日本進出を考える海外企業全般にも当てはまりそうですね。
イアン・ティエン氏:
そう思います。日本に参入するとき、「まず広い市場で認知を取ろう」と考える企業は多いかもしれません。でも実際には、自社が最も価値を発揮できる条件の強い領域から入ったほうが、結果として市場での立ち位置が明確になります。そこから信頼と実績を積み上げていくほうが、長く残る企業になりやすいと思います。特に日本では、誰にでも通じるメッセージより、「この現場の、この問題を解ける」という明確さのほうが強いと思います。

日本進出を考えるCEOへの問い

―― 最後に、日本進出を考える海外企業のCEOに、一つ問いを投げかけるとしたら何でしょうか。
イアン・ティエン氏:
「自社は、日本で最も広い市場に向いているのか、それとも最も強く必要とされる市場に向いているのか」。まず、その問いを持つことだと思います。大きさだけで市場を選ぶと、自社の強みが薄まってしまうことがあります。むしろ、自社の価値が最も深く必要とされる場所から始めるほうが、結果的には強い参入になるのではないでしょうか。
このインタビューで見えてくるのは、日本進出の成否が「どれだけ大きな市場を狙うか」ではなく、「どこで最も深く必要とされるか」を見極められるかにかかっているということです。次のホワイトペーパーでは、この視点をさらに一般化し、日本進出における市場選定を「広さ」ではなく「制約との適合性」から考えるべき理由を整理します。

関連コンテンツ

イアン・ティエン氏が語る「広い市場から入るつもりはない」とは、具体的にどういうことか。
AI時代の日本進出における市場選定の考え方をさらに掘り下げ、体系化し、ホワイトペーパーにまとめました。

「広い市場から入るな 日本進出の勝ち筋は「制約の強い領域」にある」では、
・なぜ日本進出では「市場規模」から考えると失敗しやすいのか
・AI時代に、市場を「製品カテゴリー」ではなく「制約条件」で切るべき理由
・なぜ有望なのは「誰でも使う市場」より「失敗コストの高い現場」なのか
・自社が日本で最も深く必要とされる市場を、どう見極めるべきか

といったテーマごとに、日本進出の勝ち筋を市場選定から考えるための視点を整理しています。

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