Vol.2
日本の銀行市場は、なぜ変わりにくかったのか
―nCino Japan 野村氏が語る、「保守的」で片づけてはいけない理由
ENJINスタッフ執筆
- 2026年 5月 26日 -

海外企業から見ると、日本の銀行市場はしばしば「保守的」「変化が遅い」と映ります。確かに、業務の中核を担うシステムを変えるには慎重さが求められますし、新しい仕組みが広く浸透するまでには時間を要します。
しかし、nCino Japan の立ち上げを担った野村氏は、その見方だけでは本質を捉えきれないと語ります。「日本の銀行が変わらなかったのは、単に保守的だったからではない。変えたくても変えるための“武器”がなかったからだ――」
では、何が変化の引き金となったのでしょうか。
着任当初に見えていた景色と、現在の日本市場の違いについて聞きました。
―― 日本の銀行市場に入って、最初に感じたことは何でしたか。
野村氏 :
当時の金融機関は、依然としてスクラッチの発想が強い状況でした。今でも多数派はそちらだと考えています。ただ、5年前と現在では、見えている景色はまったく異なります。その点は明確に言えます。
―― 「保守的」という言葉だけでは言い表せない、ということでしょうか。
野村氏 :
そうですね。もちろん慎重さはありますが、それだけではありません。当時、日本の銀行を見渡したときに、融資のような基幹業務で、外資のサービスを使ってオペレーションをしている銀行は1行もありませんでした。
そもそも、SaaSに業務を合わせるという発想自体が、日本の銀行の歴史の中で存在していませんでした。クラウドといっても、多くはインフラの話にとどまっていました。だから、変わる・変わらない以前に、そのような選択肢自体がなかったのです。
「変革したくても、武器がなかった」
―― なるほど。「変わらない」のではなく、「変える武器がなかった」と。
野村氏:
まさにその通りです。働く側の仕組みも関係しています。高度成長期の名残や、終身雇用を前提とした人事制度など、こうした組織のメカニズムが残っていると、何かを大きく変えるインセンティブはどうしても働きにくい。
一方で、変革の必要がなかったわけではありません。実際には、少子高齢化で人は減っていく一方で、トップラインは維持・向上させなければなりません。だからこそ、現場には矛盾が生じていました。
ただ、その矛盾を解くための現実的な選択肢が見えていなかったのだと考えています。
―― それが今、変わってきている。
野村氏:
はい。大きな変化としては、日本で実際に nCino の先行事例が出てきたことにあります。5年前は、融資のような基幹業務で外資のサービスを使っている銀行は1行もありませんでしたし、nCino のユーザーもゼロでした。それが今は、1行、2行、3行、5行、10行と着実に増えてきて、15行目も目前という段階まで来ています。
もっとも、最初から今の形で広がったわけではありません。私がジョインして1年半で最初の3行は決まったので、当時は「意外と早く波をつくれるかもしれない」と思いました。しかし、振り返ると、それはある意味で偶発的な要素も含まれていたと考えています。最初に決めてくださった銀行は、「我こそはと、先陣を切ろう」という、かなりイノベーティブな組織風土を持っていました。
一方で、多くの銀行は、やはり他行の成功を見てから動きたいと考えています。とりわけ地銀は、他の地銀を注視しています。そのため、最初の3行が決まったあとも、そこからすぐに市場全体が動いたわけではなく、そこから市場は、本格的な立ち上げに向けてアプローチを見直す期間に入りました。
「先行事例」は、提案を変えたことで初めて強くなった
―― 市場が本格的に動き始めるには、何か転換点があったのでしょうか。
野村氏:
立ち上げ初期は、銀行側の「既存の基幹システムは変えられない」という実情に合わせて、後方システムは残したまま、フロントのUI部分だけを nCino で担う提案をしていました。もちろん当時としては合理的な面もありましたが、後方システムが残ったままだと、結局コスト構造は大きく変わりません。そこに新たな投資が加わるため、ROI のロジックがどうしても弱くなってしまいます。
その限界を明確に突きつけられたのが、ある大きな案件が頭取まで上がって否決されたときでした。これを契機に、本社とも十分に議論を重ね、部分的な改善ではなく、融資プロセス全体を見直す、本来あるべき提案へと切り替えました。全面的な刷新には相応の負担を伴いますが、そのぶん、総コストを下げられる可能性があるほか、データの一元化が可能となり、生産性向上も経営に説明しやすくなります。そこで初めて、「日本の銀行でも、SaaS に業務を合わせていけば、想定どおり、あるいはそれ以上の ROI が出る」という事例が、より強いかたちで見えるようになってきました。
業務効率が向上し、融資までの時間も短縮される。そうした成果が出てくると、他の銀行も関心をもつようになります。その結果、市場のうねりが徐々に強まってきています。5年前と現在の最も大きな違いは、そうした先行している成功者が、実際に見えるようになってきた点にあると考えています。

最初の1社より、「市場が真似したくなる事例」が重要
―― では、日本市場で本当に重要なのは、必ずしも最初のロゴを取ることではないということでしょうか。
野村氏:
そう考えています。最初の1行を獲得すること自体はもちろん重要です。しかし、それ以上に重要なのは、市場に他社も真似したくなる成功の形をつくれるかどうかです。日本の銀行市場では、「誰かが先にやっていて、しかもそれがきちんと成果につながっている」という事実が非常に強い影響力を持っています。
だからこそ、現在市場が変わってきている背景には、nCino の先行事例が積み上がってきたことが一定の影響を与えていると考えています。
―― Vol. 3に続く
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